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遺留分に関する民法の特例

遺留分に関する民法の特例については、中小事業主の実技試験ではたびたび出題されていますが、学科試験ではかなり出題頻度が低いです。
しかし1級やCFPでは出題頻度が高い、知っておくべき事項になります。

遺留分に関する民法の特例は、中小企業の先代経営者が持つ自社株式を、後継者が生前贈与を受ける場合に、相続上のトラブルを防ぐ目的で作られた制度です。下記の問題解説とともに、この特例について詳しく見ていきましょう。

除外合意

2015年9月 FP技能士2級 実技(きんざい中小事業主) 問15より

1. 本特例(遺留分に関する民法の特例)における除外合意とは、後継者が先代経営者から贈与された一定の自社株式について、その価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しない旨の合意である。

この記述は適切です。
原則として遺留分の額は、相続財産全体を基準として、その何分の1、と算定します。
しかし本特例を利用すると、相続財産から除外合意となった自社株式の評価額を引いた残額から、遺留分の額を計算する、ということにできるのです。

この特例がないと、遺留分減殺請求により自社株式が他の相続人の手に渡ってしまい、後継者が保有する株式比率が低下して(過半数を下回るなど)、会社の意思決定が困難になる場合もあります。
このような事態を防止するために本特例が用意されており、後継者に自社株式が集中させて、迅速な経営を継続できることにつなげることができるのです。

固定合意

2015年9月 FP技能士2級 実技(きんざい中小事業主) 問15より

2.本特例(遺留分に関する民法の特例)における固定合意とは、後継者が先代経営者から贈与された一定の自社株式について、遺留分を算定するための財産の価額に算入すべき価額を贈与時における相続税評価額に固定する旨の合意である。

この記述は不適切です。
「贈与時における相続税評価額」を、「合意した価額」に直すと正しい文章となります。

2017年1月 FP技能士2級 学科 問60より

4.固定合意とは、後継者が旧代表者からの贈与等により取得した所定の株式等について、遺留分を算定するための基礎財産の価額に算入すべき価額を取得時点における価額とする旨の合意をいう。

この記述は不適切です。
「取得時点における価額」を、「合意した価額」に直すと正しい文章となります。

遺留分を計算する場合、その評価額は原則として、相続時点の相続税評価額で計算をします。
しかし本特例を用いると、その評価額を合意時点における合意価額に固定することができます。

なお、「関係者で合意した価額」とするものであり、自動的に「贈与時の相続税評価額」で固定されるわけではありません。

なぜこのような制度があるかと言いますと・・・

後継者が、先代経営者から自社株を生前贈与されたとします。
先代経営者が亡くなり相続が発生したとき、この贈与した自社株が相続財産に組み入れられる場合があります。
(相続発生3年前までの贈与、またこの贈与が特別受益とみなされた場合、など)

このとき、後継者が企業価値を高めた結果、株価が上昇してしまうと、この後継者はより多くの遺留分減殺請求を受けることとなるのです。
努力して株価を上げれば上げるほど、遺留分減殺請求によって保有株式を失い、持ち株比率が下がってしまうわけです。

このような事態を防止するために、あらかじめ遺留分計算時における株価を推定相続人同士で合意をしておくことができるのです。

なお、固定合意によって当事者の好きなように価額を決められるわけではありません。
株価の妥当性は求められるため、合意した価額が「相当な価額である」ことを、弁護士、公認会計士、税理士に証明してもらう必要があります。

遺留分権利者の合意が必要

2017年1月 FP技能士2級 学科 問60より
2015年9月 FP技能士2級 実技(きんざい中小事業主) 問15も類題

1.本特例(遺留分に関する民法の特例)の適用を受けるためには、原則として、遺留分を有する推定相続人および後継者全員の書面による合意が必要である。

この記述は適切です。
本特例が使われる代表的な場面は、事業承継における、自社株式の生前贈与です。
先代経営者が持つ株式の多くを、後継者となる特定の子供(推定相続人)に生前贈与するケースです。
この場合、相続財産全体から見ても、贈与される株式の価値の比率が高い場合があります。結果的にこれが他の相続人の遺留分を侵害することがあります。

本特例による固定合意や除外合意(いずれも、既にこのページ上部で解説済み)を行うと、後継者以外の相続人の遺留分の額が実質的に下がってしまいます。

後継者を除く相続人に不利益な特例のため、あらかじめ遺留分を有する相続人全員の合意がないと、成立できないようになっているのです。

家庭裁判所の許可が必要

2017年1月 FP技能士2級 学科 問60より
2015年9月 FP技能士2級 実技(きんざい中小事業主) 問15も類題

2.本特例(遺留分に関する民法の特例)の適用を受けるためには、合意について経済産業大臣の確認を受けた日から一定期間内にした申立てにより、家庭裁判所の許可を得ることが必要である。

この記述は適切です。
遺留分の請求は、すべての国民が持つ権利です。しかし本特例は、その権利を奪う性質のものですから、除外合意や固定合意が妥当なものであるかを、経済産業大臣と家庭裁判所がチェックする仕組みになっているのです。

議決権要件

2018年1月 FP技能士2級 実技(中小事業主) 問15より

<中略>
長男Cさんが本特例(注:遺留分に関する民法の特例)の適用を受けるためには、Aさんからの贈与によりX社株式を取得したことによりX社の総株主の議決権の( 2 )を有するなどの要件を満たしたうえで、妻Bさん、二男Dさんおよび長女Eさんと書面によって合意し、経済産業大臣の確認を受け、( 3 )の許可を受ける必要がある

(2)に入る言葉は「過半数」です、(3)に入る言葉は「家庭裁判所」です。
「遺留分に関する民法の特例」は、議決権総数の過半数の非上場株式を、後継者に集中するように贈与を行った場合に使える特例となっています。
本来、遺留分は民法で定められた割合(一般的なケースでは法定相続分の1/2)が、どの国民にも適用されます。
しかしこの特例を使うと、一部の相続人の遺留分減殺請求の範囲が狭くなるため、相続人全員の合意と、家庭裁判所の許可まで必要な制度となっているのです。

 


 

 

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