不動産の譲渡に関する税金
取得費
土地取得費の「5%ルール」について
2014年9月 FP技能士2級 学科 問48より
3.譲渡した土地の取得費が譲渡収入金額の5%相当額を下回る場合、譲渡収入金額の5%相当額をその土地の取得費とすることができる
この選択肢は適切です。
要するに、実際の土地の取得費と、譲渡収入金額の5%と、どちらか得になる方を選択してもよい、ということなのです。
土地の取得費が不明の場合にこの5%ルールが用いられますが、取得費が明確な場合でも適用できることを覚えておきましょう。
譲渡費用
譲渡費用に該当するもの
- 譲渡時の仲介手数料
- 賃借人を立ち退かせるための立退料
- 建物取り壊し費用
- 売却のための広告料
- 土地の測量費
- 土地、建物の鑑定料
- 買主の登記費用を負担した場合、その登記費用
- 売買契約書の印紙代
- 買主との交渉のために要した交通費や通信費
- 買主の要望による、売却直前の建物の補修費用
- より有利な条件で売却するときに生じた違約金
譲渡費用に該当しないもの
- 引っ越し費用
- 固定資産税、都市計画税
- 譲渡所得申告のための税理士報酬
- 売却に要した弁護士費用
- 相続登記費用
【注意】固定資産税は、譲渡所得の場合は譲渡費用に含まれません。ただし、不動産所得の場合は必要経費となります。
居住用財産の3000万円の特別控除
2015年5月 FP技能士3級 学科 問25より
「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」の適用を受けるためには,適用を受けようとする者のその年分の合計所得金額が3,000万円以下でなければならない。
この記述は誤りです。
3000万円の特別控除の特例の適用にあたり、所得の要件はありません。
この特例を適用するには、いくつもの要件があります。
皆様がお持ちのテキストには、その要件がまとめて書いてあると思います。
ここでそのすべてを紹介しませんが、一通りお持ちのテキストで勉強しておきましょう。
長期譲渡所得の軽減税率の特例
2017年1月 FP技能士2級 学科 問48より
2.軽減税率の特例(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例)は、居住用財産を居住の用に供さなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡しなければ、適用を受けることができない。
この記述は適切です。
本記述のとおり、要件として、譲渡の期限が3年以内と定められている点を覚えておきましょう。
これは「居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除」にも存在する要件ですので、併せて覚えておきましょう。
相続税の取得費加算の特例
特例の概要
2014年1月 FP技能士2級 学科 問59より
4.相続により取得した不動産を相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年以内に売却した場合、相続財産に係る譲渡所得の課税の特例により取得費に相続税額のうちの一定の金額を加算することができるため、相続開始前に売却するよりも税引後の手取り金額が増える場合がある。
この選択肢は適切です。
これは、所得税(譲渡所得)と、相続税にまたがる税の取り扱いに関する特例です。
上記問題文にもある通り、この特例は、相続した土地を売却するときに発生する譲渡所得を減らす効果があります。支払った相続税のうち一定額を取得費に加算できるためです。下記の計算式であることを、まずは思い出してください。
譲渡所得 = 収入金額 − 取得費 − 譲渡費用
なぜこのような特例があるのかというと・・・
思いがけず相続が発生し相続税が発生したとします。そこで、相続税支払いのために土地を売却したところ、その譲渡に対してさらに所得税が発生します。税を払うために税が発生するという、いわば2重課税のような状態になります。これに配慮して、譲渡による所得税を減らしてあげる特例だと考えてください。
ですので、相続税の一定額を取得費に加算して、所得税の減税効果が生まれるよう配慮された特例なのです。
上記2級の問題文を解釈すると、相続開始前(つまり被相続人の生前)に売却するより、相続開始後(つまり被相続人の死後)に不動産を売却したほうが、節税になるということです。(売却価格が同じであれば、という条件付き)
不動産が絡む相続対策の現場においては、この取得費加算を考慮に入れて対策を検討することもあります。
こういう特例があるのだということも、覚えておきましょう。
特例を適用できる期限
2019年9月 FP技能士2級 実技(きんざい中小事業主)問12より
2 甲土地を相続の開始があった日の翌日から3年を経過する日までの間に譲渡しなければ、本特例の適用を受けることはできない。
この記述は不適切です。
「相続の開始があった日の翌日から」を「相続税の申告期限の翌日から」に直すと正しいです。
細かい点ですが、3年という期間の開始がいつ時点なのか、正しく理解をしておきましょう。
概算取得費との併用
2019年9月 FP技能士2級 実技(きんざい中小事業主)問12より
3 甲土地の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、収入金額の5%相当額を甲土地の取得費とするときは、本特例の適用を受けることはできない。
この記述は不適切です。
収入金額の5%を取得費とする場合(概算取得費)も、その取得費に対して相続税の取得費加算を行うことができます。
取得費加算となる対象の不動産
2014年9月 FP技能士2級 学科 問59より
4.相続税の納税資金に充てるため、相続人が相続開始前から所有していた不動産を売却する場合、所定の要件を満たせば、譲渡所得の金額の計算上、納付すべき相続税額のうちの一定の金額を取得費に加算することができる。
この選択肢は不適切です。
「相続開始前から所有していた不動産」を「相続によって取得した不動産」に直すと、正しい文章となります。いわゆる相続財産の取得費加算についての記述ですね。
あくまでも、相続によって取得した不動産が対象であり、それ以外の不動産は取得費加算は認められないのです。
譲渡先が親族・特殊関係法人の場合
2019年9月 FP技能士2級 実技(きんざい中小事業主)問12より
4 仮に、AさんがX社の発行済株式等の50%超を有するなど、X社が特殊な関係のある法人に該当する場合は、本特例の適用を受けることはできない。
この記述は不適切です。
譲渡先の相手(買主)が親族であったり、本記述のような特殊な関係のある法人であっても、取得費加算の特例を受けることはできます。
ちなみに、空き家譲渡の3000万円の特別控除の方には、譲渡先の相手(買主)が親族であったり、本記述のような特殊な関係のある法人である場合は、適用を受けることができません。
勘違いしやすいところですが、この違いも理解しておきましょう。
空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例
譲渡価額は1億円以下
2018年1月 FP技能士2級 実技(中小事業主) 問12より
3 甲土地をX社に譲渡した場合に、譲渡価額が1億円以下であることなどの要件を満たせば、甲土地の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、「被相続人の居住用財産(空家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」の適用を受けることができる。
この記述は不適切です。
問題文より、X社は売主であるAさんがその株式をすべて保有している会社であることが示されています。
これを「特別な関係にある法人」と税金の世界では呼びますが、特別な関係にある法人に対して譲渡した場合は、この特例は適用することができません。
同様に、親族に対して譲渡した場合にも、この特例を適用することはできません。
更地で譲渡した場合も適用できる
2018年5月 FP技能士2級 実技(きんざい生保) 問15より
(2019年9月 FP技能士3級 実技(きんざい個人資産)問11も類題)
「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」(以下、「本特例」という)に関して
2 「Aさんが老朽化した実家の建物を解体して更地で譲渡した場合には、本特例の適用を受けることができません。本特例の適用を受けるためには、そのほかの要件もありますので、税理士等の専門職業家に相談することをお勧めします」
この記述は不適切です。
本特例は、次の状況下で適用を受けることができます。
- 相続で取得した被相続人が居住していた家屋を売る
- 相続で取得した被相続人が居住していた家屋とともに、その敷地を売る
- 相続で取得した被相続人が居住していた家屋を取壊し、その後にその敷地を売る
本問の記述は、上記の3つ目の要件に該当し特例の適用を受けられるため、この記述は不適切となります。
ちなみにこの場合は、下記の要件を満たしていなければ適用を受けられない点も、合わせて覚えておきましょう。
- 家屋については、相続の時から取壊し等の時まで、事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
- 敷地については、相続の時から譲渡の時まで、事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
- 敷地については、取壊し等の時から譲渡の時まで、建物又は構築物の敷地の用に供されていたことがないこと。
- 相続の開始があった日から3年目の年の12月31日までに売ること。
- 譲渡収入(売却代金)が1億円以下であること。
小規模宅地の特例との併用
2019年9月 FP技能士2級 実技(きんざい生保)問14より
3 「自宅(実家)の敷地について『小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例』の適用を受けた場合、本特例(注:被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例)の適用を受けることはできません」
この記述は不適切です。
小規模宅地の特例と、空き家譲渡の3000万円特別控除の特例は、併用して適用を受けることが可能です。
ただし実際にこの2つの特例を併用できるケースは限られます。
被相続人が亡くなる前に要介護状態となり老人ホームに入居し、その間自宅が空き家になっていた場合です。
その状況で被相続人が亡くなると、空き家ではあるものの、他の要件を満たしていれば特定居住用宅地として、小規模宅地の特例の適用を受けられます。
その後、その土地を相続した相続人が空き家を譲渡した場合、空き家譲渡の3000万円の特別控除の特例を受けられるのです。
このようなケースがあることも、知っておいてくださいね。
被相続人居住用家屋等確認書とは
2018年5月 FP技能士2級 実技(きんざい生保) 問15より
「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」(以下、「本特例」という)に関して
3 「本特例の適用を受けるためには、確定申告書に被相続人居住用家屋等確認書を添付する必要があります。当該確認書は実家が所在するX市に申請し、交付を受けてください」
この記述は適切です。
被相続人居住用家屋等確認書は、その特例を受ける要件を満たしたかどうかを記載して申告するための書類です。
自己申告だけでは受理されず、空き家となったのかどうかの客観的な情報を書き込む用紙となっており、この提出が求められています。
ご興味がありましたら、下記のページからその確認書をダウンロードすると、どんなことを書き込むのかが分かります。参考にしてみてくださいね。
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000030.html
特定の居住用財産の買い替えの特例
制度の概要
譲渡した年の1月1日の時点で、所有期間が10年を超える居住用財産の譲渡に対して利用できます。
譲渡した年のよく年末までに、買い替えた物件に対して居住の用に供する見込みがある場合に、利用できます。
「買い替え資産の取得金額≧譲渡金額」となった場合には、譲渡がなかったものとして課税が繰り延べられます。
「買い替え資産の取得金額<譲渡金額」となった場合には、この金額の差額分に対して譲渡があったものとして、課税されます。
買い替えた資産の取得費は、譲渡した資産の取得費を引き継ぎます。
ただし、取得時期は、買い替えた時期に更新されます。
住居用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除とは、併用することができません。
居住用財産の軽減税率の特例とは、併用することができません。
適用の要件
2013年9月 FP技能士3級 実技(きんざい 個人資産) 問11より
(特定居住用財産の買換えの特例について、)本特例の適用を受けた場合,買換資産の取得価額に対応する部分について譲渡益の( 1 )相当分の課税を繰り延べることができる。本特例の適用を受けるための主な要件は,以下のとおりである。
〈主な適用要件〉
・譲渡資産の対価の額が( 2 )以下であること
・譲渡資産を所有している期間が,譲渡した日の属する年の1月1日現在において( 3 )超であること
・譲渡資産である住宅に居住している期間が,( 3 )以上であること
正解の選択肢は、1の「1:100% 2:1億円 3:10年」です。
※注:
出題当時は(2)の答えは1億5000万円でしたが、平成26年1月1日より1億円に改正されています。
特定居住用財産の買換えの特例については、3級試験では過去に出題されたことがありません。2級ではたびたび出題されているものですが、3級受験者にとっては難問だったかと思います。
通常、不動産を買い替えた時、売却した不動産(譲渡資産と言います)に譲渡所得が発生することがあり、その場合には納税が必要となります。したがって、新たに買う不動産(買替資産と言います)の購入金額と、売却時に発生する税金額とを用意する必要があります。
しかしこの特例を使うと、売却時に発生する税金額を繰り延べることができるので、買換えの時にはその税金を支払わなくてもよいというメリットがあります。
ただし、繰延された税金額は、新たに買った不動産を売却するときに、支払うことになります。税金が免除されるのではなく、後で支払うことになる(繰り延べられる)という点に注意してください。
この買換えの特例の適用を受けるためには条件があり、それが本問で問われています。買替えの特例について学習するときには、本問で出題された内容をしっかり理解しておくことが大切です。
床面積と築年数の要件
2015年1月 FP技能士2級 実技(きんざい個人資産) 問11より
特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例に関して、
- 買換資産について,個人が居住の用に供する部分の床面積が( 2 )以上,敷地の面積が500u以下であること
- 買換資産が耐火建築物の中古住宅である場合には,取得の日以前( 3 )以内に建築されたものであること(ただし,一定の耐震基準を満たすものについては,建築年数の制限はない)
(2)に入る言葉は「50m2」、(3)に入る言葉は「25年」です。
これは「特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例」における適用要件であり、暗記事項ですね。hなかなか細かい点ですが、対策としては覚えるしかありませんので、余裕があればここまで覚えておきましょう。
また、この特例は、譲渡益に対する課税を将来に繰り延べるものであり、譲渡益を非課税にしてくれるものではありません。この点も理解しておきましょう。
ちなみに、この特例には、その他いくつもの要件があります。下記の点が出題されやすいですので、併せて覚えておきましょう。
- 譲渡資産(売却対象の資産)の譲渡対価(売却代金)が、1億円以下であること。
- 売った人の居住期間が10年以上で、かつ、売った年の1月1日において、売った家屋やその敷地の所有期間が共に10年を超えるものであること
譲渡所得の計算式
譲渡所得 = 収入金額 − (取得費および譲渡費用)
収入金額 = 譲渡資産の譲渡価額 − 買い替え資産の取得価額
取得費および譲渡費用 = (譲渡資産の取得費+譲渡費用) × (譲渡資産の譲渡価額ー買い替え資産の取得価額) ÷ 譲渡資産の譲渡価額
なお、「買い替え資産の取得金額<譲渡金額」の場合には、上記の式の「譲渡資産の譲渡価額 − 買い替え資産の取得価額」は0とみなします。この場合、収入金額も、取得費及び譲渡費用も、計算すると0となります。
固定資産の交換の特例について
概要
1級やCFPでは定番ですが、2級試験のテキストには詳しいことがほとんど載っていません。
不動産取引では実務上、活用するケースもある制度です。
2人の間で不動産などの資産を交換する取引をした場合、原則的にはお互いに同じ金額で売買をしたものとみなして、双方に譲渡所得が課税されます。
しかしこの特例を使うと、資産を交換した際に発生する譲渡所得を繰り延べることができる点がメリットとされています。
(税の免除ではなく、税の支払時期を後ろにずらす効果がある特例です)
所有期間の要件
2015年9月 FP技能士2級 学科 問48より
1.交換譲渡資産も交換取得資産もそれぞれ所有期間が1年以上でなければ、本特例(固定資産の交換の特例)の適用を受けることはできない。
この記述は適切です。
交換する2つの資産は、ともに所有期間が1年以上でないと、この特例を受けられないということになります。
土地と借地権の交換
2015年9月 FP技能士2級 学科 問48より
2.土地と借地権の交換の場合は、本特例(固定資産の交換の特例)の適用を受けることはできない。
この記述は不適切です。
固定資産の交換の特例は、土地と土地の交換、建物と建物の交換、というように、同種の資産の交換が条件となります。
本選択肢にある借地権は、土地の扱いとなるため、土地と借地権は同種の資産とみなし、交換をすることができます。
販売用の土地には適用できない
2015年9月 FP技能士2級 学科 問48より
3.交換取得資産が、不動産業者が販売のために所有している土地(棚卸資産)の場合は、本特例(固定資産の交換の特例)の適用を受けることはできない。
この記述は適切です。
販売目的の資産同士では、固定資産交換の特例は適用できません。
この場合は、素直にお互いに売買をすることとなり、お互いに譲渡所得が発生することとなります。
時価の差額、交換差益について
2015年9月 FP技能士2級 学科 問48より
4.交換譲渡資産の時価と交換取得資産の時価との差額が、これらの時価のうちいずれか高い方の価額の20%以内でなければ、本特例(固定資産の交換の特例)の適用を受けることはできない。
この記述は適切です。
交換する2つの資産が、きっちり同額の価値である必要はありません。本選択肢の通り、高い方の価格の20%以内であれば、その差額を現金精算することで、本特例を適用できます。
例えば、800万円の建物と、1000万円の建物を交換する場合にも、固定資産の交換の特例は使えるということです。
資産の交換における圧縮限度額の計算
2017年9月 FP技能士2級 実技(中小事業主) 問12より
「交換により取得した資産の圧縮額の損金算入」(法人税法第50条。以下「本特例」という)に関する以下の文章の空欄に入る最も適切な数値を記入しなさい。
<中略>
仮に、X社がY社との間で、X社が所有する丙土地(時価1億円、譲渡直前の帳簿価額8,000万円)とY社が所有する乙土地(時価9,000万円)を交換し、X社がY社から交換差金等1,000万円を受け取り、譲渡経費の額が1,000万円であった場合、X社において本特例による圧縮限度額は( 3 )万円となる」
3に入る数字は「900」です。
圧縮限度額は、次の算式で計算します。
圧縮限度額=取得資産の時価−(譲渡資産の帳簿価額+譲渡経費+A)×(取得資産の時価÷(取得資産の時価+B))
A:交換差益を支払ったなら、その金額。交換差益を支払っていないなら0円。
B:交換差益を受け取ったなら、その金額。交換差益を受け取っていないなら0円。
上記算式に数字をあてはめていくと、圧縮限度額は次のように計算されます。
9000−(8000+1000+0)×(9000÷(9000+1000))=9000−9000×0.9=900
以上より、圧縮限度額は900万円となるのです。
最後に、参考までにこの圧縮限度額が経理上どのように使われるのかについてみてみましょう。
この交換取引において、X社側が本特例を使わなければ、次のように経理処理を行います。
(借方) (貸方)
乙土地 9000万円 | 丙土地 8000万円
交換差金 1000万円 | 譲渡益 2000万円
譲渡益が2000万円発生し、それに対して法人税が課税されます。
一方で、本特例を使うとX社側の経理処理は次のようになります。
(借方) (貸方)
乙土地 9000万円 | 丙土地 8000万円
交換差金 1000万円 | 譲渡益 2000万円
圧縮損 900万円 | 乙土地 900万円
益金として譲渡益の2000万円がある一方で、損金として圧縮損900万円があります。
差し引き1100万円に対して法人税が課税されるため、本特例を使うことで節税効果が生まれるのです。
一方、乙土地の帳簿価格は、本特例を使わなければ9000万円ですが、本特例を使うと9000万円−900万円=8100万円となります。
取得費が下がってしまうため、乙土地を将来に売却するときに、法人税が多く課税されることになります。
すなわち、本特例を使うと、圧縮損で計上した900万円分の課税を、将来に繰り延べることになるのです。これが、課税の繰り延べ効果と言われる理由になるのです。
立体買換えの特例について
2013年9月 FP技能士2級 実技(きんざい 個人資産) 問11より
いわゆる「立体買換えの特例」の要件を満たす場合には,AさんはX土地の譲渡に関し,譲渡所得の金額の計算上,譲渡益の100%相当分の課税の繰延べが可能である。
この記述は適切です。立体買換えの特例は1級学科試験でたまに出題されますが、今回2級でも出題されました。立体買換えの特例について記載のあるFP試験対策テキストはあまりありませんので、悩んだ受験者も多かったのではないでしょうか。
立体買換えの特例とは、主に不動産の等価交換方式の際に用いられる特例です。下記の条件を満たした場合に利用できます。
- 土地を譲渡すること
- 譲渡した土地に、3階建て以上の建物を建築し、その一部または全部を取得すること
- その建物は、耐火建築物または準耐火建築物であること
- その建物は、延床面積の2分の1以上を居住の用に供されるものであること
- 建物のうち取得した部分は、以下のいずれかの用途であること
・事業用
・本人または親族の居住用
以上の条件を満たすと、譲渡した土地から得られた譲渡益について、その譲渡所得を100%繰延することができます。この100%繰延は、居住用建物の買い替え特例の場合と同様と覚えましょう。
したがって、この問題の記述は「適切」となるのです。
この買換えは、土地と土地の買換えではなく、また建物と建物との買換えでもなく、土地とその上に立つ建物との買換えであることから、「立体買換えの特例」と名付けられていると考えれば、理解しやすくなりますね。
収用等の場合の課税の特例
2019年1月 FP技能士2級 実技(きんざい中小事業主)問12より
(2016年9月 FP技能士2級 実技(中小事業主) 問12も類題)
「法人の所有する資産が収用等され、交付を受けた対価補償金により代替資産を取得した場合には、代替資産について圧縮限度額の範囲内で帳簿価額を損金経理により減額するなどの一定の方法で経理したときは、その経理した金額を損金の額に算入する圧縮記帳の適用を受けることができます。この圧縮記帳の適用を受けるためには、原則として収用等のあった日から( 1 )以内に代替資産を取得するなどの要件も満たす必要があります。
また、この圧縮記帳の適用を受けない場合で、原則として収用等による譲渡が公共事業の施行者から買取り等の最初の申出があった日から( 2 )以内に行われているなどの要件を満たしているときは、譲渡益の額と( 3 )万円とのいずれか低い金額を損金の額に算入することができます」
(1)に入る言葉は「2年」、(2)に入る言葉は「6カ月」、(3)に入る言葉は「5000」です。
以上の内容は、収用等の場合の課税の特例の基礎知識となります。
収用とは(収容ではありません)、公共事業などを理由として、自分の財産を国や地方自治体に売却することを意味します。用地買収などにより、半強制的に売却を余儀なくされることもあります。
前半の代替資産を取得する場合の圧縮限度額に関しては、いわば「居住用住宅の買換の特例」のように税の繰り延べ効果がある制度です。
後半の5000万円の損金算入は、いわば「居住用住宅の3000万円の特例」のように節税効果がある制度です。
この特例について記述のあるテキストはほとんどありませんし、数年に1度のめったに出題されない特例です。
この機会に、上記の記述をそのまま覚えて、理解しておきましょうね。
居住用財産の譲渡損失
居住用財産の譲渡損失が発生しても、税の還付は受けられない
2016年1月 FP技能士2級 学科 問34より
4.居住用財産を譲渡したことによる譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額は、所定の要件を満たせば、その損失が生じた年の前年に繰り戻して、前年分の所得税の還付を受けることができる。
この記述は不適切です。
居住用財産の譲渡損失に対しては、それ以降の年の所得と損益通算する繰り越し控除の制度があります。しかし繰戻還付の制度はありません。
繰戻還付と言えば、青色申告者の損失繰戻還付がありますが、これと混同しないよう注意してくださいね。
特定の資産の買換えの特例
2018年9月 FP技能士2級 実技(きんざい中小事業主) 問12より
(注:「特定の資産の買換えの場合の課税の特例」(以下、「本特例」という)に関して)
譲渡資産および買換資産がいずれも土地である場合、原則として、買い換えた土地のうち、譲渡した土地の面積の( 1 )倍を超える部分は買換資産とはならない。
また、長期保有資産の買換え(いわゆる7号買換え)の場合、譲渡した土地の所有期間が譲渡した日の属する年の1月1日において( 2 )年を超えていなければならず、買い換えた土地の面積が( 3 )u以上でなければならない。
仮に、同一事業年度内に土地を買い換え、譲渡資産の譲渡対価の額が2億円、買換資産の取得価額が1億円、譲渡資産の譲渡直前の帳簿価額が5,000万円、譲渡に要した費用の額が1,000万円である場合、本特例の適用を受けることによる圧縮限度額は( 4 )万円となる。
(1)に当てはまる言葉は「5」、
(2)に当てはまる言葉は「10」、
(3)に当てはまる言葉は「300」、
(4)に当てはまる言葉は「5600」です。
(1)〜(3)は、「特定の資産の買換えの場合の課税の特例」の適用要件です。これは暗記事項ですから、セットで覚えておきましょう。
(4)は圧縮限度額を求める計算問題ですが、圧縮限度額の計算式は、次の通りです。
圧縮限度額=圧縮基礎取得価格×差益割合×80/100
この式にある、圧縮基礎取得価格と、差益割合は、次の算式で計算をします。
圧縮基礎取得価格は、買換資産の取得価格と、譲渡資産の譲渡対価のうちの低いほうの金額です。本問では、
買換資産の取得価格=1億円、
譲渡資産の譲渡対価=2億円、
よって低いほうの、買換資産の取得価格の1億円が、圧縮基礎取得価格となります。
差益割合={譲渡資産の譲渡対価−(譲渡資産の帳簿価格+譲渡費用)}÷譲渡資産の譲渡対価
={2億−(5000万+1000万)}÷2億=0.7
以上より、圧縮限度額=1億円×0.7×80/100=5600万円
これが(4)の答えとなります。
交換・買い替え・取得の特例に伴う取得日と取得費
不動産に関して、様々な交換や買い替えの特例があります。
それらの特例を適用したり、また贈与や相続によって取得した不動産の、取得日と取得費を引き継ぐかどうかが試験で問われることがあります。
引き継ぐかどうかについて、下記の表のとおりまとめています。
特例の種類 (取得の方法) |
取得日 | 取得費 |
---|---|---|
特定居住用財産の買換えの特例 | 引き継がない (買替え時期で更新) |
譲渡した資産の取得費を そのまま引き継ぐ |
特定事業用資産の買換えの特例 | 引き継がない (買換え時期で更新) |
課税繰り延べ部分 (買換え部分)の 取得費を引き継ぐ |
固定資産の交換の特例 | 引き継ぐ | 譲渡した資産の取得費を そのまま引き継ぐ |
収用等に伴い代替資産を 取得した場合の課税の特例 |
引き継ぐ | 譲渡した資産の取得費を そのまま引き継ぐ |
立体買換えの特例 | 引き継がない (買換え時期で更新) |
買換え部分の 取得費を引き継ぐ |
贈与による取得 | 引き継ぐ | 引き継ぐ |
相続による取得 | 引き継ぐ | 引き継ぐ |
この表を丸暗記してもよいですが、下記のとおり覚えたほうが楽です。
- 取得費は、原則として引き継がれる。
- 取得日は、買い替えた場合は引き継がれず、それ以外の場合は引き継がれる。
各種特例に関する、所有期間の整理
頻出事項(受験者は暗記すべき事項)
特例の種類 (取得の方法) |
所有期間要件 |
---|---|
3000万円の特別控除 | なし |
長期譲渡所得の課税の特例 (いわゆる軽減税率の特例) |
譲渡した年の1月1日において 所有期間が10年以上 |
特定居住用財産の買換えの特例 | 譲渡した年の1月1日において 所有期間が10年以上 |
居住用財産の譲渡損失の 損益通算および繰越控除 |
譲渡した年の1月1日において 所有期間が5年以上 |
試験で出題される可能性が低い、参考情報
特例の種類 (取得の方法) |
所有期間要件 |
---|---|
特定事業用資産の買換えの特例 | 実所有期間が10年以上 |
固定資産の交換の特例 | 実所有期間が1年以上 |
収用等に伴い代替資産を 取得した場合の課税の特例 |
なし |
立体買換えの特例 | なし |
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