不動産投資と有効活用
DSCR(借入金償還余裕率)
2014年1月 FP技能士2級 学科 問50より
4.DSCR(借入金償還余裕率)は、借入金の年間元利返済額を元利金返済前の年間キャッシュフロー(純収益)で除した比率であり、この比率が高いほど望ましいとされる。
この選択肢は不適切です。DSCRは久しぶりに出題されましたね。
DSCRは、不動産投資を借金をして行う場合の、返済安全度を測る指標です。選択肢の「年間元利返済額」と「元利金返済前の年間キャッシュフロー」を入れ替えると、正しい文章となります。
つまり、DSCRの計算式は、次の通りです。
DSCR = 年間純収益 ÷ 借入金返済額
例) 家賃収入が年間900万円あるが、毎年借入金の返済額が600万円の場合
900万 ÷ 600万 = 1.5
この値が1.0を超えていれば、不動産投資で得られる収入だけで借金を返済できていると判断できます。この指標は、値が高いほど財務上望ましいです。
実務上、不動産投資目的で借金をする場合、この値が1.2以下だと、金融機関などからお金を貸してもらえない、とも言われています。
単純利回り
2014年1月 FP技能士3級 学科 問51より
不動産投資の採算性を示す指標の1つである( )は,年間賃料収入を投資額で除して算出する。
1) 単純利回り
2) ネット利回り
3) 内部収益率
正解の選択肢は1です。単純利回りの計算式は、下記のとおりです。
単純利回り = 年間賃料収入 ÷ 投資額(物件購入額)
単純利回りのことを、表面利回り、グロス利回りとも言います。いずれも同じ意味です。
上記の計算式の通り、単純に、賃料収入と投資額(物件購入額)で割り算をします。
しかし、不動産賃貸にかかる経費などを一切考慮しないので、不動産投資をする人が現実に得られる利回りとは異なります。
不動産広告では、一般的にこの利回りが記載されていますが、実際に不動産投資家が得られる利回りはこれより低下します。
不動産投資にあたっては、この単純利回りよりも、次に述べるネット利回り(NOI利回り)の方を重視すべきと考えるべきと言えます。
NOI利回り(ネット利回り)
NOI利回りの定義
2013年5月 FP技能士3級 学科 問55より
不動産投資の採算性の評価に用いられる純利回り(NOI利回り)は,純収益を( )で除して算出する。
正解の選択肢は2の「投資総額」です。
NOI利回りとは、ネット利回りとも言います。
NOIは、Net Operating Incomeの略で、営業利益としての意味があります。
不動産から得られる実質的な収益率を計算する時に使われる指標で、純収益を投資総額で割り算した値のことです。NOI利回りの計算式は、次の通りです。
NOI利回り = 純収益 ÷ 投資総額
=
(年間賃料収入−諸経費)÷(物件購入額+諸費用)
ここでいう純収益とは、賃料収入から不動産経営にかかる経費(固定資産税、保険料、管理費用、修繕費など)などを差し引いた、実質的な利益のこと(これがNOIです)を指します。
投資総額とは、物件購入額に加え、諸費用(不動産取得税や不動産会社への手数料など)を加算した金額のことです。
よく不動産広告では、すでに述べた単純利回りが表示されていますが、これはかかる経費が0で、不動産会社に払う諸費用も考慮しないという、いわば架空の利回りを表示しています。
しかし不動産投資をするに当たっては、経費や手数料を考慮して計算された、より現実的な利回りであるNOI利回りによって投資判断をすべきと言えます。
ちなみに、NOI利回り計算式にある「年間賃料収入」は実務上において、満室時の収入を入れて計算する場合もあれば、空室率を考慮した収入で計算する場合もあります。
NOI利回りを使う場面によって多少変わる点に注意が必要です。
実際に不動産投資をするときにも大切な考え方ではあるので、覚えておくとよいでしょう。
NOI利回りの計算に含めないもの
2017年1月 FP技能士3級 実技(きんざい個人資産) 問12より
《設例》の〈建築を検討している賃貸アパートの概要〉に基づいてAさんが賃貸アパートを建築し、賃貸する場合の建築費等投資額に対する純利回り(NOI利回り)として、次のうち最も適切なものはどれか。
建築費等投資額 7200万円
年間賃貸収入 720万円
年間運営費用 216万円(減価償却費、借入金利子を含まない)
減価償却費(年間) 288万円
借入金利子(年間) 144万円
正解は、504万÷7200万円×100=7% です。
NOI利回りの計算では、単純に収入額から運営費用を引き算したものを使用します。
したがって、(720万−216万)÷7200万円×100=7%となるのです。
借入金の利子は支出ではありますが、NOI利回りの計算には含めません。
これは、NOI利回りは不動産の調達方法(借り入れをしたかどうか)によって計算結果が変わることがないよう、考えられているからなのです。
実際の支出ではない減価償却費は、NOI利回りの計算には含めません。
ちなみに、減価償却費を考慮して、
(年間賃料収入−年間運営費用−減価償却費)÷投資額
の計算式で計算するものを、「投下資本収益率」といいます。
こちらは、建物の価値が年々下がることをも考慮して、投資判断をする場合に用いられる指標です。
不動産投資ファンドでは、この指標を考慮して不動産の売買戦略・活用戦略を立案している場合もあるそうです。
積算法
2011年1月 FP技能士2級 実技(きんざい 個人資産) 問10より
2012年9月 FP技能士2級 学科 問41より
対象不動産の基礎価格を求め、これに期待利回りを乗じて得た額に、必要諸経費を加算して対象不動産の試算賃料(積算賃料)を求める方法です。
積算法を利用する場合には、不動産の基礎価格、期待利回り、必要諸経費の金額がある程度はっきりしていることが前提となります。
原価法は基礎価格から不動産価格を算出する方法ですが、積算法は基礎価格から賃料を求める方法です。このどちらも、不動産の価値を強く反映させる場合に利用しますす。
賃貸事例比較法
多数の新規の賃貸借などの事例を収集して、適切な事例の実際実質賃料に必要に応じて事例補正および時点修正を行い、地域要因及び個別的要因によって求められた賃料を比較し、これによって対象不動産の試算賃料(比準賃料)を求める方法。
近隣地域において類似条件の不動産に対して適用できる方法。
類似の事例から不動産価格を求めるのが取引事例比較法ですが、類似の事例から賃料を求めるのが賃貸事例比較法です。このどちらも、取引市場の事情を強く反映させる場合に利用します。
収益分析法
対象不動産が一定期間に生み出す期待収益を求め、これに必要諸経費などを加算して対象不動産の試算賃料(収益賃料)を求める方法です。
収益還元法は不動産価格を求めるものでしたが、収益分析法は賃料を求める方法となります。このどちらも、賃貸人の支払い可能能力を強く反映させる場合に利用します。
等価交換方式
等価交換方式で使われる2つの計算方式について
2013年9月 FP技能士2級 実技(きんざい 個人資産) 問12より
等価交換方式による、デベロッパー側の建物の取得面積を計算する問題でした。
おそらくこの手の問題に慣れていなくて困ってしまった受験者が多かったと思います。ここでは問題文に記載されている用語について解説をします。
原価積上方式とは、土地と建物のそれぞれの出資額をもとに、建物の持分割合を計算する方式です。
土地の価値が高ければ高いほど、また建物の建設費を抑えれば抑えるほど、地主側が建物を多く取得できる方式といえます。
一方の市場性比較方式とは、建物を建設するデベロッパーの採算性を基準にして、建物の持分割合を計算する方式です。デベロッパーが収益性の高い建物を建築できる場合には、デベロッパー側が建物を多く取得できる方式といえます。
他にもいくつかの計算方式もありますが、計算方式によってデベロッパー側の取得面積が異なります。そのため、ある計算式では地主が有利になり、また別の計算式ではデベロッパーが有利になったりします。
実務上はいくつかのケースを想定して取得面積を算出し、最終的には両者で相談をして折り合いをつけて、取得面積を決定することになります。それぞれの計算方法は、その取得面積の根拠の一つとして考えることになります。
借地権と底地の交換
2016年9月 FP技能士2級 学科 問50より
2015年1月 FP技能士2級 学科 問50も類題
2.等価交換方式では、所有権を有する土地だけでなく、借地権や底地であっても、等価交換の対象となる。
この記述は適切です。
借地権を等価交換の対象とする事例も多くあります。
例えば、ある土地を別の人に貸している場合は、土地の貸主と借主はどちらも、単独で土地を自由に活用することができません。
そこで、貸主側の権利である底地と、借主側の権利である借地権を、同じ価値の分だけ等価交換すれば、元の土地を二分割して、貸主と借主がともに所有権を持てるようになります。
所有権を持てれば、所有者は単独でその土地を売ったり相続させたりできるようになり、より有効活用できるわけです。
このように、借地に関する問題を解消するため、借地権の等価交換が行われるケースがあるのです。
等価交換方式において使われる譲渡所得の特例
2016年9月 FP技能士2級 学科 問50より
3.等価交換方式によって土地を譲渡した土地所有者は、「特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例」の適用を受けることにより、当該譲渡所得に対して課税されない。
この記述は不適切です。
「特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例」を「立体買い替えの特例」に直せば正しい文章になります。
立体買い替えの特例は、土地の譲渡価格で建物の一部を取得した場合に使える特例で、土地の譲渡における譲渡所得をなかったものとし、その代わりに取得費を引き継いで課税を繰り延べることができる特例です。
本記述の「特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例」は、譲渡所得の80%を繰り延べる制度であり、譲渡所得課税があります。
課税なしで交換できる制度ではない点に注意してください。
地主は建物を全部取得できるか?
2017年5月 FP技能士2級 学科 問50より
3.等価交換方式では、土地所有者は建物の建築資金を負担する必要はないが、土地の所有権の一部を手放すことにより、当該土地上に建設された建物の全部を取得することができる。
この記述は不適切です。
等価交換方式は、土地の所有権の一部と、建設された建物の一部を交換する制度です。したがって、建物の全部を取得はできません。あくまでも建物の一部の取得にとどまります。
建設協力金方式
建設協力金方式の仕組み
2018年9月 FP技能士2級 学科 問50より
2.建設協力金方式は、建設する建物を借り受ける予定のテナント等から、建設資金の全部または一部
を借り受けて建物を建設する方式である。
この記述は適切です。
テナントとは、事業者である建物の借主のことを指します。
土地所有者は、テナントのために建物(店舗や商業ビルなど)を建設します。
ただしその建設資金は自己資金ではなく、テナントから無利子で借りるという方法でまかなうのが、建設協力金方式の特徴です。
借りたお金を「建設協力金」と呼ぶことから、この名がついたものです。
建設協力金方式では、土地所有者は、土地上の建物の所有者ともなり、その建物をテナントに貸し付けます。
すなわち、土地所有者(=建物所有者)とテナントとの間で、建物の賃貸借契約を締結します。
一方で、土地所有者がテナントから無利子で借りているお金は「保証金」とその形態を変えます。この保証金は、あらかじめ定めた年数にわたってテナントへ毎月分割して支払います。
つまり、テナントは土地所有者に建物賃料を支払い、土地所有者はテナントに保証金を分割で支払います。
結果として、土地所有者は「建物賃料−保証金」の額をテナントから受け取れるという、土地活用方法になるのです。
土地も建物も地主のものとなるという点では、自己建設方式と同じです。
建物の建設資金は不要またな少額ですみますが、保証金の返済があるため、建物から得られる賃料は自己建設方式と比べて低くなります。
契約満了後は、土地を更地にしなければならないか?
2019年5月 FP技能士2級 実技(きんざい個人資産)問11より
3 「建設協力金方式により建設した建物については、契約期間満了後に借主であるテナント(事業会社)が撤去し、土地を貸主に更地で返還する手法が一般的です」
この記述は不適切です。
前項「建設協力金方式の仕組み」をお読みいただき、基本的な仕組みをご理解ください。
この仕組みの解説の通り、地主は、建物の所有者ともなると説明しました。
したがって、テナントは賃貸借契約終了後、建物を撤去する必要はありませんし、土地を更地にして返還することもありません。
したがってこの記述は不適切、ということになるのです。
土地所有者にかかる所得計算の注意点
土地所有者が得る収益は、「建物の賃料−保証金」の額です。
しかし、確定申告で申告する不動産所得の収入金額は、「建物の賃料」です。つまり、保証金の額は不動産所得の必要経費とはなりません。
建設協力金方式による土地の評価について
2019年9月 FP技能士2級 実技(きんざい個人資産)問11より
II 「建設協力金方式により建設された建物は、相続税額の計算上、貸家として評価され、土地は( 2 )として評価されます。また、所定の要件を満たすことで、土地は( 3 )事業用宅地等として、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の適用を受けることもできます」
(2)に入る言葉は「貸家建付地」、(3)に入る言葉は「貸付」です。
建設協力金方式で建設した建物の所有者は、地主(土地所有者)となります。
自己所有の土地に、自己所有の建物を建て、それをテナントに貸しているわけですから、賃貸マンションを建築して貸し付けるのと同じ仕組みであり、貸家建付地として評価をします。
また、土地を第三者に貸付しているという観点から、小規模宅地の特例における貸付事業用宅地として評価することとなります。
建設協力金方式の仕組みをしっかり理解していれば、迷わず答えられるようになりますよ。
建設協力金方式による建物の汎用性(デメリット)
2019年9月 FP技能士2級 学科 問50より
2.建設協力金方式は、建設する建物を入居予定のテナントから建設資金を借り受けて建設するため、当該建物はテナントの仕様に合わせた構造となり、用途の汎用性は低いものとなる。
この記述は適切です。
建設協力金方式は、テナントのための建物を建てるという趣旨でもありますから、テナントの好みの建物を建てることになります。
ただ、そのテナントが退去した後、次のテナントにとって使い勝手の良い建物かどうかは別問題です。
最初から汎用的な建物にしておけば、さまざまなテナントが利用しやすいものになりますよね。
最初のテナントに特化した建物になる可能性がある点が、建設協力金方式のデメリットとされています。
このような背景も、理解しておきましょう。
土地所有者の視点でのメリット
- 土地だけを貸す場合と比べて、高い賃料が得られる。
- 建物が、土地所有者の資産となる。
- 建物建設にあたり、自己資金が不要又は少額で済む。ただ、資金が不要なのではなく、あくまであとで分割返済する必要がある点に注意。
- 万一テナント側から契約を解約された場合、保証金の返済義務がなくなり、事実上建物を時価より低い価格で入手できる。
- 建物建設資金に関して、保証金に金利がかからない(銀行などから借りれば金利はかかる)
- 相続税額を下げる効果がある。なぜなら、土地は借家建付地として、建物は借家として、保証金は債務として評価するため。
ただし、賃貸借期間が経過すると、債務が小さくなる点と賃料収入合計額が増加するために相続税額が増える要素にもなる点には注意が必要である。
土地所有者の視点でのデメリット
- 受け取れる建物の賃料は、自己建設方式と比較して低くなる。
- テナント側の業績悪化などの理由で、建物の賃料が途中で下がる可能性もある。実際には、テナント側が立場が強いことも多く、賃料の値下げを断りづらいケースもある。
- 建物は賃貸借契約を結んだテナントが希望する独自仕様である場合、賃貸借契約終了後にその建物を有効活用しづらくなる。建物の解体する場合には、その費用を土地所有者が負担することにもなる。
テナントにとってのメリット
- 土地を借りる必要がないので借地権に関連する面倒なことを背負わずに済む
- 建物を保有せずリースの形態で手軽に利用できる
- FP技能士3級と2級の過去問から、難問(試験対策テキストには記述がない問題、多くの人が間違えやすい問題など)を中心に解説しています。
正解だけでなく、問題の背景や周辺知識も含めて解説しています。 - 万一記述に誤りがあると思われた方は、お問い合わせページよりお知らせください。正しい内容をお知らせし、当サイトも訂正します。
(法改正により、すでに古い記述となっている場合があります) - 調べたい単語で検索できる、検索ページはこちら。
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