保険料が売上高方式の法人向け保険
2016年9月 FP技能士2級 実技(損保顧客) 問8より
(2019年9月 FP技能士2級 実技(損保顧客) 問8も類題)
<問題文そのものは省略>
本問で例示されている保険の保険料は「売上高方式」です。
まずは、売上高方式の保険について解説します。
売上高方式とは、売上高を基準に保険料を定める方式です。
売上高が高いほど、保険料も高くなります。
通常、被保険者一人一人を保険に加入させるのが一般的です。しかし売上高方式を採用することで、一人一人を保険に加入させる手続きが不要になり、しかも従業員数が変化しても、保険契約にかかる事務手続きが不要になるというメリットがあります。
被保険者を具体的に特定しないので、無記名式保険とも呼ばれ、名簿等の提出も不要なのが特徴です。
売上高が高いほど業務にかかわる人の数も増える、という関連性に基づいて、このような保険設計がなされているのです。
実務上の観点で説明すると、従業員の入れ替わりが比較的多い会社、フルタイムで働かない人が多い会社、従業員一人当たりの売上高が小さい(=売り上げ規模に対して従業員の数が多い)会社であれば、採用する価値はあります。
逆に、従業員数が少ないにもかかわらず高い売上高の会社(少数精鋭の会社、とも言えます)の場合は、従業員一人ごとに保険に加入したほうが、割安になります。
また、売上高方式の独自の特徴として、下請け企業の従業員も被保険者にできます。
労災の上乗せ補償の位置づけである点も特徴です。
本問は建設業を前提としていますが、建設業以外の業種をも対象とした売上高方式の保険商品も登場しています。
さて、以上を踏まえて、問題の答えを確認していきましょう。
1.「建設業者向けの当該傷害保険は、売上高や請負金額に基づいて保険料を算出する契約方式により、下請負人の従業員の方を含めた全従業員を補償の対象とすることができます」
この記述は適切です。
すでに説明した通り、下請け従業員も含め、補償の対象にすることができます。
2.「売上高方式による契約は、契約時に被保険者の名簿の提出は不要です。また、被保険者の人数が変動しても、その都度の手続は不要です」
この記述は適切です。
無記名式の保険であるため、具体的に被保険者を特定するような手続きはありません。
3.「当該傷害保険は、労働者災害補償保険(政府労災保険)の認定後でなければ、保険金が支払われることはありません」
この記述は不適切です。
設問の意味が分かりにくかったかもしれませんが、本記述の「認定」とは、業務上で事故があった場合のいわゆる労災認定のことを指します。
本問のような傷害保険は、業務上の事故があった場合において、一般的に労災認定がなされるかどうかとは別の基準があり、その基準に基づいて保険金支払いの対象かどうかを判定することになります。労災認定がなされた後でないと保険金が支払われない、というわけではないので、本記述は不適切というわけです。
ただし保険契約によっては、労災認定がなされることを支払いの要件とするケースが約款の中に存在する場合もあります。
それでもやはり、一般的には、労災認定とは直接的な連動はありません。
4.「死亡および後遺障害をともに補償の対象にしていること、従業員および下請負人のすべての方を対象としていること等の所定の要件を満たすことで、経営事項審査制度において、加点評価の対象となります」
この記述は適切です。
いきなり「経営事項審査制度」という単語が出てきましたね。これは建設業特有の業界用語であり、2級試験の範囲を超えていると個人的には思いますが・・・。
「経営事項審査制度」とは、いわゆる公共工事を自治体等から受注するにあたっての、受注側の建設業者の審査のことです。
自治体が、ある思惑に基づき特定の企業に発注してしまうことを避けるため、客観的な指標で発注先を決めるためにこの審査制度があります。自治体は、この審査制度の結果を加味したうえで、発注先を決定しなければならないとされています。
この審査は、受注側の建設業者を数値により点数化できるようになっており、財務状況、経営規模、請負実績、建築に関する国家資格保持者の人数、退職金制度の有無などに基づき、数値化していきます。
さて、本問の解説に入りますが、本問のように労災の上乗せとなる保険に加入していると、この審査制度において加点されることとなっています。ただしその加点に対しては条件があり、
- 死亡および後遺障害をともに補償の対象にしていること(本選択肢に記述あり)
- 従業員および下請負人のすべての方を対象としていること(本選択肢に記述あり)
- 業務災害と通勤災害のいずれも対象としていること
などの要件を満たしている必要があります。
これらを満たしていれば、経営事項審査制度において有利になり、自治体から受注できる可能性が高まるというわけです。
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